名駅歯科の症例
代表症例7
歯茎の土手がない総義歯の患者さんのケース(ソフトデンチャー)
Sさんの症例(70歳 男性)
総義歯を入れたいが、アゴの関節や歯ぐき歯が一本もなくアゴの骨も減ってしまっているが、なんとかもう少しおいしく食べたい。顔、特に唇の周りのシワが目立つし、入れ歯もいかにも入れ歯早老なのでもう少し自然な歯並びで、出来たら若々しく出来ないか・・・と悩む患者さんの症例。
口腔内の様々な状態と対策
[イ] 歯ぐきの土手のない患者さんのケース
高齢になるほどアゴの関節や歯ぐきの土手も減り咬み合わせがラフで動き易くなりにくいため義歯が不安定で、咬むと上下の入れ歯が動きやすく、動くと傷が出来やすい。歯ぐきも粘膜も薄くなり、その下の骨も減っているので咬むと義歯が外れやすいです。
薄くなった歯ぐきの粘膜に歯ぐきに優しい柔らかい素材のソフトデンチャーを入れ歯の内面に使うと痛む頻度は次第に少なくなります。ソフトデンチャーは熱でやや柔らかくなるので吸着も良くなり、咬む能率も他の入れ歯の材質よりも良くなります。この事実は医学レベルで証明されています。もちろん入れ歯が正しく慎重に作られていての話です。条件の厳しい口腔内で唾液や歯ぐき粘膜に一日中接している軟性プラスチック材料は、長期にわたり材質が安定しにくく劣化しやすく、毎日の入れ歯の清掃が大きく影響します。軟性治療材料として長年臨床で使われ続けている素材は少ないのですが、当院でつかうオランダ製のベルテックスソフトデンチャーは日本でも長年使われており、当院ではもちろん、臨床家の評価も高い素材です。
[ロ] 土手はあるが、より快適な入れ歯を入れたい患者さんのケース
やはり金属床義歯がいいと思います。金属床は薄く、精密であり、違和感がなく、話しやすく衛生的で温熱刺激の伝達がよく、丈夫でありプラスチックの入れ歯とは大きくことなります。慎重に正確につくられればその吸着力、安全性も第一級です。金属床にはコバルトクローム床とチタン床の2種類が主に使われていますが、特にチタンは精密で薄く軽く成体親和性が良いのが特徴です。
[ハ] 残根として残っている根(歯根)をこれから抜いて総義歯を作ろうと思っている患者さんのケース
残った歯がグラグラしていたり、その根を押すと痛いのであれば別ですが、抜かねばいけないほど深いムシ歯であれば抜歯もやむを得ません。そうでなければなんとしてでも1本でもよいから残しておいてください。あと1本歯があることによって、いろいろ利用できますし、その歯のおかげで入れ歯の安定に大きく寄与することもあり。宝のような歯です。歯ぐきの土手が狭い下の歯の場合は特に価値があります。
[ニ] 土手がないどころか奥歯の土手が前歯部の土手より1cmも異常に沈んだケース
もちろん土手がしっかりあるほど有利ですが、土手が窪んでいても土手があるケースと同様に一歩ずつ慎重につくっていけば咬める入れ歯は可能です。高齢の方でアゴの骨が減り咬み合わせが安定しない人や土手を覆う歯ぐき粘膜が薄くてクッションの役割があまりない人、今までの入れ歯で変な咬み癖がついている人、唾液が少ない人にとっては入れ歯と歯ぐきの吸着には不利なので私たちは正しい咬み合わせを探し、慎重に入れ歯つくりを進めねばなりません。体温でやや柔らかくなる素材のソフトデンチャーでつくればまず大丈夫です。 患者さんも入れ歯装着後の注意事項をよく守ってください。
食事の第一回目はスープ・おかゆのみ、まず咬むより入れ歯に口腔全体で慣れることです。それから徐々に小さく切った柔らかい食べ物を食べていくということです。キズが出来ないように無理しないように注意してください。少しずつ様子を見ながら歯科医の調整を受けて下さい。
[ホ] 上は義歯だが下のアゴにはしっかりとした前歯6本がそろっていたり、下の歯の多くが残っているケース
(勿論上顎に歯が多数残り、下が徐々に歯や土台がなくなってしまうケースも多くあります)
上の入れ歯とその内側の歯ぐきは咬んだ時下の自分の歯の強い咬む力を支えることになり、上下の咬む力がアンバランスでどうしても上の歯ぐき、骨が負けてしまい、徐々に骨は溶け歯ぐきはふやけたような状態(フラビーガム)に変化し上の入れ歯は安定しにくくなります。とりあえず治療は調整と裏打ちですが、根本は正しい入れ歯を慎重につくることです。またこのようなケースの方の中には、昔から硬いもの咬み応えのあるものを好む傾向にありますから、食習慣も徐々に変化させていくことも大切と思います。
[へ] 入れ歯を入れる時や入れてから口腔の粘膜や舌(舌根部)が刺激され嘔吐反射が起きてしまうケース
口腔の奥の方に入れ歯が大きすぎるとゲッとなるのは普通ですが、このケースでは通常の広さの入れ歯でも大臼歯のあったところや、舌の後方に少しでも入れ歯が触るとゲッとなってしまいます。これは入れ歯に慣れるとかではなく嘔吐反射ですから、入れ歯を小さくするしかありません。嘔吐の刺激となる部分を少しずつ削り、入れ歯がその辺りに触らないようにするしかありません。(勿論精密な安定した入れ歯を丁寧に作ることが第1です)
入れ歯を触らないように削るということは入れ歯の面積が狭くなるということで入れ歯が外れやすくなることになります。歯科医は嘔吐刺激になりそうな部分を試行錯誤を繰り返しながら少しずつ最小限に削り、嘔吐刺激が生じない範囲の広さを決め、最終のな入れ歯をつくります。通常上アゴの喉から中央にかけては刺激が強いので切り抜かざるを得ません。入れ歯の作製にあたっては狭い入れ歯となり吸着の面積が減るので入れ歯の安定が悪くなります。
このような場合入れ歯ははずれやすくなります。上アゴの狭い入れ歯は吸着が悪く外れ易くなります。この悪条件を克服するには精密に吸着して薄くしても破折しない、軽い等の条件のそろったチタンの金属床で、上のアゴの真ん中から咽頭にかけてくりぬいた入れ歯(無口蓋義歯)の形でつくり、慎重にその人にピッタリとあった精密な入れ歯を完成させるために、何回もミクロン単位の調整を繰り返します。嘔吐反射は、入れ歯の咬みあわせがしっかりせず安定がわるく入れ歯が動くと、その刺激で反射が更に起きやすくなるので、しっかりとした咬みあわせが必須ということになります。
[ト] 上アゴの口蓋から奥(上アゴの真ん中から喉)のほうまで骨の盛り上がり(骨隆起)のあるケース(入れ歯が入るだろうかと心配するケース)
このケースは6に似ています。上アゴの奥のほうに骨の盛り上がりがあり、吸着の良い通常の入れ歯を作るのに障害になりそうなのです。しかしこの場合もほぼ心配はありません。
- ・骨隆起を覆って、通常の入れ歯のように上アゴ全体を覆う。
- ・そして骨隆起を避けて[へ]のような無口蓋の感覚のよいチタン金属床義歯をつくる、そして咬み合わせアゴの運動をさせる為に前歯があたらない左右の小臼歯〜大臼歯の上下8本が均等にあたらない時は先生に咬み合わせの調整をお願いをすることです。
この2つの方法から検討してつくりますから、骨の盛り上がりがあっても可能ですが、いずれにしても歯科医の精密な咬み合わせを実現する技術力が試されるケースです。